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現在、川崎市民ミュージアムで開催されている個展「私は時間を描いている」では、漫画作品はもちろん、漫画以前に描いていたという油彩画、そして、オリジナリティあふれる横山氏の漫画ワールドを形成する幼少期のスケッチなど、横山裕一のほぼすべての作品が網羅されている。
会場全体の構成を見渡すと、会場全体を囲むようにぐるりと円を描くようにテーブルが連なっており、そこには「ニュー土木」「アウトドア」「トラベル」「NIWA」の漫画作品の原画が展示されている。そして、中央のテーブルには、今回の新作となる漫画「ベビーブーム」のボツ原稿を使った、非常にカラフルで繊細なコラージュ作品の台と全漫画の全コマ、約3000コマをスキャンしたという映像が上映されている。そして、会場を取り囲む壁面には、油彩画等の過去の作品が展示されている。
横山裕一氏が漫画を描き始めたのは「時間」を描くことができるから。今回の展示タイトルにもあるが、この展覧会はその連続性が堪能できるような構成になっている。
「1枚の絵だとその前後の時間が描けないじゃないですか、なのでその続きを描きたいというところから漫画が始まりました。15年くらい前からカラーの漫画みたいなものを描きはじめました。あっという間でしたね。今後も僕は漫画をやるべきだと思う。展覧会をやってくれるのは非常にうれしいことです。僕の最大の目的は本を売ること、普及させること、社会教育ですよ、啓蒙活動。それには美術館が一番いいんですよ。人が来て買ってくれるから」(横山裕一氏)
今回の会場構成は、トラフ建築設計事務所。トラフの鈴野浩一氏はかねてより横山裕一漫画の大ファンで、サンフランシスコの文化施設「NEW PEOPLE」の設計を手がけた際も、インテリア全体に横山さんが描く顔をフィーチャーしている。横山漫画を知り尽くした鈴野氏は、今回の展覧会のオファーを快諾、随所に横山氏の世界観をちりばめるとともに、漫画を読むために最適な会場構成を施した。
「会場全体に人工芝を敷いたのは、横山さんの「ニュー土木」や「NIWA」などの作品がアウトドアなイメージからです。横山さんも人工芝大好きと聞いていたので。今回の会場構成のポイントというのは「時間の流れを見せる」ということでした。美術館では、壁で作品を見せるのが一般的ですが、それだと高尚な作品っぽく見えてしまう。それでテーブルで見せることを考えていて、いろいろな方法を試しているうちに、すべてのテーブルを繋げて美術館の外周に添うようなかたちでぐるっとめぐるのがいいと思いつきました。外側を1周回ると「トラベル」の漫画の内容にも重なります。テーブルは外側と内側からそれぞれ漫画が読めるようになっており、漫画は左から右に読んでいくので、内側にいる人は外側の人と反対周りになってぐるぐる会場をめぐることになる。そういう人がすれ違っていく姿自体をデザインしました」(トラフ鈴野浩一氏)
上の写真は、オープニングの日に横山氏と担当学芸員が作品解説をしながらツアーを行ったときの様子。テーブルの内側と外側に人が群がり、互いに違う方向にぐるぐる周りながら作品を読む。人工芝の上をザクザク歩いている人たちの姿は、「ザッザッザッザッ……」という漫画の効果音が聞こえてきそうな感じだった。
「ニュー土木」所収「BOOK」より。これは、数人の人(?)が現れ、部屋にある本棚から本を放り投げたり、手裏剣のように相手に投げ、それを刀のようなものでザクザクと切り刻んでいく。
「ニュー土木」所収「土木」より。これは横山さん自身が「最高傑作」といっている作品の1つ。横山ネオ漫画の原点とでもいうべき作品だろうか。岩を切り崩し、ローラーでならし、人工芝をしく。その上に落ちてきた大きな岩がエントランスとなり、そこからエレベーターで地下へと向かっていく。
これが会場中央に展示された、今回の目玉とでもいうべき作品。雑誌「Web Designing」で連載されていた漫画「ベビーブーム」の没カットを寄せ集めて作ったというコラージュ作品だ。「ベビーブーム」は、それまでの「NIWA」や「トラベル」とはまったく赴きの違う作品。画材をペンからマジックに変え、出てくるキャラクターも、ハードボイルドな人間とはまったく異なるかわいいひよこ(のような人物)やうさぎ(のような人物)や鳥(のような人物)。
「ある意味僕が一番関心を寄せているのがこの展示です。この作品の前では、絶対にフラッシュを使わないでください。使ったら本当に通報します。この作品は退色しやすいマジックを使っており、テストで屋外に置いてみたら数時間でピンク色がなくなってしまった。ところどころに線が描いてある紙があるんですが、それは試験紙です。あまりにも退色し過ぎたらこの展示は中止します」と横山氏。
そのほか、横山氏が小学校時代に描いていたという幻の漫画原稿や、だれもが一度は書いたことがあるであろう暗号日記、そして創作に欠かせないカセットテープが展示されている。
漫画原稿や暗号日記は分かるとして、何故カセットテープ? と思う人もいるのではないだろうか。横山氏は常にテレコ(現在はICレコーダー)を持ち歩き、人との会話を録音するのである。アトリエに来客があったときにもテープを回す。そして、録音された友人たちとの会話を聞きながら、その楽しい雰囲気を思い出して漫画を描くのだという。このインタビューをしていたときにも、もちろんICレコーダーを回していた。
また、6月4日からは、アラタニウラノにて横山裕一個展「BBF」を開催されている。川崎にも展示されている漫画「ベビーブーム」の没カットを集めた新しいコラージュ作品。それを1冊にまとめたアートブック「ベビーブームファイナル」の発売を記念して、作品の原画などを展示。会期中は公開制作を行い、100号という大きなサイズのキャンバスに挑むという。
この機会に、人工芝と機械と建機と豊かすぎる表情の人、かわいい動物らしきものが織り成す、横山裕一ワールドツアーに出てみてはいかがだろうか。
●横山裕一 ネオ漫画の全記録:「私は時間を描いている」
川崎市市民ミュージアム 神奈川県川崎市中原区等々力1-2
開催中〜6月20日(日)一般600円
お問い合わせ:044-754-4500
●横山裕一個展「BBF」
ARATANIURANO 東京都中央区新富2-2-5 新富二丁目ビル3A
開催中〜7月14日(水)無料 open.11:00〜19:00 火〜土/日月祝休
お問い合わせ:ARATANIURANO 03-3555-0696
【上條桂子,エキサイトイズム】
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